トップページ取組み・活動THE DRUGSTORE STORY 「ドラッグストアで生まれた幸せの物語」#03

#03:笑顔が見たい!〜私にできること〜

 夢のような嘘のような、3.11東日本大震災から早くも一年が過ぎました。
私達石巻に住む地域の人々にとっては忘れたくても忘れられない、いえ、忘れてはいけない出来事として、まるで昨日のことのように感じられます。
地震だけであれば、同じ石巻に住む私達の仲間が何千人と犠牲になることはあり得なかったでしょう。
あの津波……。津波さえ押し寄せなければ、家を無くし家族が引き離され、親戚、友人、会社仲間を一瞬にして奪われることはなかったのです。
幼いころから目にしてきた故郷を奪われてしまった、皆が被災者でした。
心にスッポリ穴が開いたように、何とも言い表せない悲しみに包まれました。
そんな悲しみの中でも、1日そして1ヵ月、2ヵ月と月日は過ぎて行き、色々な地域からボランティアの方々が訪れてくれて、涙が出る程ありがたく感謝の気持ちでいっぱいでした。

 私にも何か出来ることはないのかと考えさせられ、1年前まである化粧品メーカーのビューティカウンセラーだった私は、肌のお手入れとメイクで少しでも皆を笑顔にしてあげられたらと考えましたが、それを実現するのにも備品がありません。
そこで、お世話になった会社の教育の先生にお願いしたところ、私も一緒にお手伝いしたいとおっしゃっていただき、サンプルと化粧品と備品の用意をしてくれました。
すぐさま避難所へ向かったものの、初めは、辛い思いをしているのにお化粧しに来てくれるだろうか、失礼にならないか、と不安でした。
とりあえず通りすがりの方々に声を掛け、館内にマイクで放送を流してもらって5分から10分位してからでしょうか、次から次へと人が集まり、3時間位の中で30名程メイクをしてさしあげることができました。

 来てくださったほとんどの方が家を無くし、家族を亡くした方々でした。
その中に80歳を過ぎた今まで一度もお化粧をしたことがないとおっしゃるおばあちゃんがいて、私達もまごころ込めて接しました。
メイクが終わった後、順番を待っていた方々に、「かわいいことー」とほめ言葉をかけてもらい、おばあちゃんはホホを赤くして、笑顔で「ありがたいねえー」「冥土の土産にもっていくからね」と冗談を言いながらお辞儀をしてくれました。

 心の中では悲しみでいっぱいなのに、その時ばかりは会場が笑顔でいっぱいにあふれていました。
私がしたことで悲しみの顔から少しでも笑顔が取り戻せたこと、やって良かったといううれしさで私も胸が熱くなりました。あの頃、店頭での私達化粧品担当者は、毎日1人ひとりのお客様の心のカウンセラーだったと思います。
まさに被災していた当時、そこではテレビにも雑誌にも取り上げられない色々な物語があったのです。

 私が出会ったあるお客様は、家族と友人合わせて6人亡くされたそうです。
そのうちの1人は何でも話せる、いつも一緒にいた一番の友達だったそうで、悲しみでいっぱいのご様子でした。
朝起きると涙が出て、テレビを見ていても「あの人達は化粧なんかして、どうして呑気でいられるのだろう」とひがんだり、夜目を閉じればまた涙が出てきてと、毎日泣いてばかりいて旦那さんに怒られていたと話してくれました。
私は、化粧って前向きに一歩踏み出すための切り札かも、と話しました。
女性は化粧すると気分が変わるし笑顔になれる。だから今日をきっかけにお化粧して少しずつ笑って生きて行きましょ。そうすれば今日私と出逢ったように、きっとまた違う友達と出逢えるようになりますからと、2人で知らず知らずのうちに泣きながら話していました。
その方はファンデーションを買って「今日あなたに会えて良かった」と手を握ってお店を出て行かれました。

 今もなお、私の働いている店の前は住宅も何もない被災地ですが、それでも近くに住む地域の方々が当店を選んで来てくださいます。
そんなお客様1人ひとりに私はお化粧品を通して出逢い、その人の心を癒し、少しでも心からの笑顔を見せていただけるような、まごころを込めた接客をしていきたいと思います。

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