トップページ取り組み・活動THE DRUGSTORE STORYⅡ 「ドラッグストアで生まれた幸せの物語」

海を越えて

 時間帯によると、私の働く店は異国と化す。空港がほど近く、海外からのお客様がじつにたくさんいらっしゃるからです。とくに多いのはベトナムや中国の方々。時には店内を、耳なれない様々な国の言葉が日本語を押しのけて元気に飛び交っています。

 そんな海外のお客様とコミュニケーションを取る手段はやはり英語。しかし店にはきちんとした「英会話」のできる人はいません。私自身、カタコトというのすら恥ずかしいような、単語を並べるのが精一杯の状態。商品のご案内や、お客様への受け答えに四苦八苦して、忙しいとつい心のない接客をしてしまうことも…。

 ある日の午後8時、いつものように店内は海外からのお客様でいっぱいに。もう上を下への大忙しの中、その男性は私に声をかけてきました。「Can you speak English? 」もちろん自信なんてゼロ!それでも「Little bit(少しだけなら)」とお答えするとお客様は「OK!」とにっこりされました。

 どうやら数あるシャンプーのうち、どれが良いのか選べず、オススメのものはどれかというお尋ねのようです。オススメと言っても好みやお悩みによって、ぴったりのアイテムは変わります。下手くそな英語でいくつか質問する私。するとそれに合わせてゆっくりとわかりやすく答えて下さるお客様。話していると「Present for my wife 」つまりそれは彼の奥さんへのお土産だとわかりました。人に贈るものだったのか!では尚のことチョイスに気合が入ります。私は選んだシャンプーをできる限り詳しく説明しました。何度となく聞き返したり、されたりしながら気付くと1時間近く。お客様に納得していただけたようで、私にも不思議な満足感がありました。会計が済んで、きれいにラッピングしてお渡しすると、「Thank you! Thank you!」と何度も言って帰って行かれました。

 それから一月ほど経ったころ、店内の掃除中に見覚えのあるにっこり顔に再会して思わず声を上げる私。「お久し振りです」と言いたいのに英語が出てきません。すると「Do you remember me? 」とお客様。「Yes! I remember you. 」と私。

 お客様は携帯で奥さんの写真を見せてくれ、この前のシャンプーがとても良かった、喜んでもらえたと言って下さいました。他にも結婚したばかりだということや、彼の国がどんなに暑いかを楽しそうに話して、最後は「アリガトウ、See you soon! 」と手を振って帰って行かれました。それはまるでご近所の方がまた明日にもいらっしゃる様な感じで、私も「ありがとうございます。See you soon! 」と返しました。

 今まで忙しさや言葉の壁を理由に、海外からのお客様には自分からお声がけすることをためらっていました。でもそれは間違いでした。そうです。たとえ海を越えた暑い国の方でも、言葉が通じなくても何度も足を運んでくれる。「ご近所の常連さん」と変わりないのです。私はその時ようやくそう素直に思えました。

 先日、三度その男性が店にいらっしゃいました。今度は奥さんもご一緒で、ご夫婦仲良くお買物をして帰られました。お二人からの「See you」に同じように返す私。これからは住んでいる場所に関わらず、多くの人に「またね」と言ってもらえるような人になりたい、そういうお店にしていきたいと思っています。さぁ、今日も8時がやってくるぞ!

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