トップページ取り組み・活動THE DRUGSTORE STORYⅡ 「ドラッグストアで生まれた幸せの物語」

一歩一歩

私が化粧品担当者になってすぐのころ、売り場の隅で、電動車いすが引っかかって困っているおばあさんを見つけました。「大丈夫ですか?申し分けありません。」と声をかけると、「ありがとう。大丈夫よ。それとお米はどこかしら?」と優しそうな声で返事が返って来ました。

 売り場まで一緒に行き、お米を持って一緒にお会計を済ませました。出口までお見送りをしようとしたとき、突然おばあさんが車いすのブレーキを掛けました。「どうしましたか?」とたずねると、「ここはお化粧品もおいてあるのね。少し見てもいいかしら?」とおっしゃいました。

 化粧台のいすに座ってもらい、入社してすぐだった私はパンフレットなどをひろげてドキドキしながら商品の説明をしました。すると、「実はね、私は足を悪くする前は百貨店にお化粧品を買いに行くのがとても楽しみだったのよ。でも今は近所にしか行けないから。ドラッグストアに私が使いたい化粧品が置いてあるなんて知らなかったから、とてもうれしいわ。」とおっしゃいました。私は慣れない手つきで一生懸命にマッサージとメイクをそのお客様にしました。

 今思うと、あれが私の今の仕事の第一歩だったと思います。「本当はまたこんなふうにプロのお化粧品の人にしてもらいたかったの。とても気持ちが良かったわ。ありがとう。」とそのお客様は言って、笑顔で帰って行かれました。

 「プロのお化粧品の人」という言葉とあのおばあちゃんの笑顔が忘れられず、少しでも喜んでもらおうと、私は家に帰ってからも必死で勉強するようになりました。それからそのおばあちゃんは月に一度お化粧品を買いに来て下さるようになりました。

 そのお客様とは色々な話をして、ただのお客さんと店員ではない、とてもあたたかい時間が流れました。しかし、ある時期からパタリとそのお客様は来なくなりました。「何かあったのかな?それとも私の接客が悪かったのかな?」と心配になりました。

 半年ほどたって、「Tさん、こんにちは。」とあの優しい声が聞こえました。ふりむくと、電動車いすではなく、杖をついてこちらに向かって歩いてくるあのおばあちゃんの姿がありました。

 いつもは来店する前に一本お電話を下さるので、突然のことで私は驚いてしまい、いらっしゃいませのあいさつも忘れてしまうほどでした。「このあいだまで足の手術のために入院していて、先週退院したのよ。Tさんを驚かせたくて、今日は電話をせずに来たの。今日お店にいて下さって良かったわ。」とあのいつもの笑顔でおっしゃって下さいました。私は嬉しさで涙が出てしまいそうでした。

 そのお客様との出会いは、今も私の仕事をする活力となっています。

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