
その日、「ねぇ、ちょっと…」と私に呼びかけていらした年配の男性のお客様は、私が以前レジで「何だ!この店は!
!」とお叱りを受けた方でした。それ以来、正直言うと苦手なお客様だったので声をかけられたその時も内心ドキドキ
しながらご用件をうかがいました。
お客様は洗濯洗剤と柔軟剤をお探しだったようなので売り場までご案内したところ、何を買ったらいいの
か迷われているようでした。内心ビクビクしながら「何かお手伝いしましょうか?」と言う私に「どれがい
いの?」とのお答えが…。「いつもは何をお使いですか?」とお聞きしたところ、奥様がしばらくお留守なの
でご自分で洗濯することになったが、洗濯機の使い方はもちろん、洗剤や柔軟剤がどこにあるのかもわから
ないとのこと。そこで洗剤を一緒に選び、洗濯機の使い方をご案内させていただきました。
それ以来、そのお客様が買い物にいらした時はだいたい私がご案内役になっていました。食品売り場で一
緒に夕食の献立を考えたこともありました。そして、晴れた日は決まって「いやー、今日も洗濯日和だねー。」
と笑っておっしゃるのです。
そんな日々が2ヶ月くらい続いたある日、いつもはお一人のそのお客様が奥様と一緒にお見えになりまし
た。(今日は私の出番はなさそうだな)と思いながらいつものように「いらっしゃいませ。」とお声をかけた
ところ、「この人だよ。」と私を指差して奥様に言ったかと思うと、ご自分だけどこかに行ってしまいました。
「主人が大変お世話になったようで…」から始まった奥様のお話によると、奥様は2ヶ月近く入院されていた
そうで、それまでご主人は家事らしいことは一切やったことがなかったので、奥様が退院されるまでの間だ
けでも息子さん夫婦にご主人の身の回りの世話を頼もうとしたところご主人が頑なに自分一人で大丈夫と言
い張ったので、ご主人からのSOSが出るまで知らん顔していようということになったとのこと。
ところが、毎日面会に来るご主人の口から出たのは、SOSではなく「自分で洗濯した話」、「台所の洗剤
をもっといいニオイのする物に替えた話」、「食事も、コンビニ弁当ではなく自分で作って食べている話」等、
奥様が驚くことばかりだったとか。それでも心配する奥様にご主人は「ウエルシアがあるから大丈夫。」と自
信満々でおっしゃるのだそうです。
「私が退院してきてからも、洗濯は自分がやるから…って張り切っているのよ。これまでは、洗濯物を取り
込むことすら頼んだってやってくれなかったのにね。」と、奥様も嬉しそうでした。思いがけないお話に気の
利いた言葉をお返しできたかどうか定かではありませんが、「何だこの店は!
!」とお怒りになったお客様に「この店があるから大丈夫。」と言っていただけるようになったのが何より嬉しいことでした。
あれから5年近く経ち、あのご夫婦も引越されたようで今はお見えになりませんが、晴れた日には「今日
も洗濯日和だねー。」と言いながら洗濯をしているであろうあのご主人の姿が懐かしく思い出されます。
