トップページ取り組み・活動THE DRUGSTORE STORYⅡ 「ドラッグストアで生まれた幸せの物語」

変わらぬ笑顔で

  足の不自由な七十代のお父さん。

 5月半ば、開店前の駐車場で「お天気ですね。」とたわいもない会話をさせて頂いた縁で、当店に買い物に来られる様になりました。最初はビールやお菓子を少し買っていかれる程度でした。

 ある日「体がカサカサするのに塗るクリームあるか?」との事。「ローションタイプもございますがクリームでよろしいですか?」と尋ねると「わしが塗るんじゃないんや。ばあさんや。」との事。お話を伺うと奥様が昨年ご自宅でケガをされ入院。その後退院されるも認知症の診断を受け現在グループホームに入所されているとの事。ご主人の方は1人暮らしの為、奥様に必要な物は全てご自分で買い揃えてグループホームに届けている事などを話して下さいました。

 「わしの事も何も分からん様になっとるが脳梗塞で足もこんなんやさかいリハビリや思うて歩いとる。顔見に行くんや。何も苦じゃない。毎朝3kmは歩いとる。」と笑顔で話されます。

 7月のある日「ここに服は売っとるか?」と来店されました。「ばあさん、ボタンをむしり取ってしまうから何もついとらん服ないか?」と珍しく困ったご様子。被るタイプの服をお勧めすると気に入って頂け購入されました。

 またある日は「シャンプーとリンス一緒になったのあるか?」と来店され、それからは奥様の使われる物を店内を回り一緒にお選びする様になりました。いつも来店される度に私に声を掛けて下さるので、「いつもありがとうございます。」とお礼を言うと「何もや。わしはいつも家で1人、夕飯も4時に食べて7時には寝る。誰も話し相手もおらん。ここに来ると元気な姉さん達がいつも笑顔で迎えてくれる。わしの方が感謝感謝や。」とニコニコと私達の方へ向かれ両手を合わされました。

 それからも月2〜3度来店され奥様の近況などを話されては「今日も元気もらえた。ありがとう。」と帰って行かれました。ところが12月半ば頃からお店でお見かけしなくなりました。どうされたのかな…体調でも崩されたのでは…と心配になってはいましたが、そのまま年明けを迎えました。

 年も明けて1月末のことでした。ひょっこりご主人がお店にいらっしゃいました。私の顔を見るなり「ばあさん、逝ってしもたんや。13日に。」と何もなかった様に変わらぬ笑顔で話されました。私は思わず言葉を失ってしまいました。続けて「今までありがとう。お世話になった。お陰さんでばあさん、いいのにしてもろた。助けてもらったわ。感謝しとります。」と。

 私は奥様に直接お会いした事はありません。でもなぜかご主人のいつもと変わらぬ笑顔を見ていたら、来店されるようになってからの数ヶ月の間の奥様に対する愛情あふれるエピソードが思い出され涙がこぼれ落ちそうになりました。

 そして、「実は13日は私の誕生日なんです。何か不思議な御縁を感じます。私も奥様の様な素敵な方になれる様に頑張ります。」とお伝えしました。出口の方へ向かわれるご主人に「また来て下さいね。」と声を掛けると振り向かれ、またいつもの笑顔で帰っていかれました。

 その後ろ姿を見送りながら心が暖くなっていくのを感じました。

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