トップページ取組み・活動THE DRUGSTORE STORY 「ドラッグストアで生まれた幸せの物語」#10

#10:私を変えたお客様

 入社して数年が経った頃、接客より作業重視型になっていた自分を変えた、あるお客様との出会いのお話です。
ある日の夕方、お店が賑わい始めてきた頃、サングラスにマスクというこの時期には少し違和感のある格好をした女性が化粧品売場で何かを探していました。作業に没頭してお客様を見ていないだろうと上司によく怒られる私が、なぜかそのお客様の存在が気になったのです。
「何かお探しでしょうか?」と声をおかけしてみると、お客様は少し驚かれた様子で咄嗟に俯いてしまいました。
ああ、お1人でゆっくり見たいのかなと思い、作業に戻るため背を向けると、後ろからか細い声で
「コンシーラーってどれかしら?」と呼びとめられました。第一声があまりにも弱々しく元気のないご様子だったので何か事情があるんだと思い、お客様の一言一言に耳を傾けました。

 「これを見てもらえるかしら」と、サングラスとマスクを取ったお客様のお顔を見て、最初に思った違和感がすーっと浄化されていきました。全顔にわたる内出血と青く腫れ上がった痕、そしてその傷痕以上に悲しみに満ちたお客様の表情。転んで思いっきり顔をぶつけてしまったと……。
この顔じゃ家から出られない。買い物にいけない。お客様の強い悲しみをお聞きしました。
「こんな歳だから誰も私の顔なんて見ないんだろうけど、女だし……やっぱり気になるのよ」
と寂しそうに話すお客様を元気にしてあげたい、笑顔を見たい、という純粋な思いが沸々と湧き上がり、今までにない、感情を通り越した助けてあげたいという強い決心が芽生えた瞬間でした。
できる限りのことをしてさしあげたいと思ったので、全顔でのベースメイク実習を提案しました。お客様も遠慮がちでしたが、綺麗になりたいというお客様の思いが通じたのですぐに行動に移すことができました。傷痕に沁みないように丁寧に化粧下地をつけファンデーションを重ね、特に濃い傷痕にはコンシーラーを重ねて仕上げました。
「お客様、終わりましたよ。鏡をご覧になってみてください」
とお顔の前に鏡を差し出すと、お客様は一瞬詰まったように目を見開き、
「え? 傷がほとんど目立たない!」
と驚かれ、ぱっと花が咲いたような笑顔になりました。初めて見るお客様の笑顔でした。
これだったら家に閉じこもることもないわ!と、先ほどの女性とは同1人物に思えないほど元気に声を張り上げて嬉しそうに鏡に映る自分の顔を見ていました。
「自分1人だったら、絶対ここまでできなかったわ。あなたに会えて本当によかった。ありがとう」
使用した化粧品は全て購入され、うっすら涙を浮かべて笑顔で何度もお辞儀をするお客様。
私も自分のことのように嬉しくなり、胸が熱くなったことを覚えています。
この時頂いたお客様からの「ありがとう」が、販売という仕事を通してお客様の人生の大切な場面に自分も携わっていることを気づかせ、仕事に対しての意識を変えたのはいうまでもありません。
メイクは女性を綺麗にして、そして元気にさせるということ。作業に没頭しているだけだったら、こんな思いに気づくことなんてできませんでした。

 お客様との出会いは一期一会。その時々の空間、瞬間を大事にしていきたいと思います。

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